会社が所有する建物の一室に役員が住み、家賃相当額を現金で授受せず、会社が役員から借りているお金(役員借入金)と差し引いて処理している場合に、担当者が押さえておくべき点を網羅的に整理しました。
家賃相当額と役員借入金の相殺は「家賃を受け取った」ものとして認められ得ます。ただし、それは次の3つがそろっていることが前提です。
役員からの質問に対しては、「振込・毎月・全額」が基本で、半額は役員には認められない、というのが答えになります。
会社の住宅に役員を住まわせると、本来は「ただで住める利益」が役員の給与になります。その利益をゼロにするために、「これ以上受け取っていれば給与課税しない」基準額を国税庁が算式で定めたものが賃貸料相当額です。市場家賃ではなく、固定資産税の課税標準額をもとに計算するため、一般に市場家賃をかなり下回ります。月額の概念です。
| 質問 | 答えの要旨 |
|---|---|
| 現金のやり取りは不要か | 相殺していれば不要。ただし帳簿には「受取家賃の計上」と「役員借入金の減少」として載る |
| 役員借入金が尽きたら | 相殺する相手がなくなるため、毎月の振込か役員報酬からの天引きに切り替える。払わないままだと給与課税、貸付金にすると認定利息の問題 |
| 現金入金か、本人名義の振込か | 本人名義の振込。誰が・いつ・いくら払ったかが銀行記録に残り、会計ソフトの自動仕訳もできる |
| 年1回か、毎月か | 毎月が本来の形。年1回なら年初に12か月分を前払い。年末の後払いは各月に給与課税される余地があり勧められない |
| 半額でよいか | 役員は不可。50%ルールは使用人限定。役員は算式額の全額以上が必要で、不足分は給与課税 |
| 観点 | 相殺 | 振込(毎月) |
|---|---|---|
| 証拠 | 帳簿と合意書のみ。書面整備が必須 | 銀行記録が残り、第三者性が高い |
| 資金 | 動かない。返済余力がない会社では現実的 | 役員から会社へ実際に資金が移る |
| 事務 | 毎月の振替仕訳(定型化できる) | 銀行連携で自動仕訳 |
| 税務上の判定 | どちらでも同じ。「賃貸料相当額以上を毎月受け取っているか」で判定される | |
| 家賃相当額の変動 | どちらでも、毎年の課税明細書で再計算し、第1期納期限の属する月の翌月分から改定する。相殺でも振込でも対応できる | |
下層が店舗・事務所の併用ビルで最上階だけが住居の場合、敷地に住宅用地の特例(課税標準を6分の1等に圧縮)が受けられないことがあり、算式額が大きく高くなります。建物全体の用途と課税明細書の敷地の課税標準額を必ず確認します。
会社の住宅に役員を住まわせることは、所得税法上「金銭以外の経済的利益」の供与に当たり、給与所得の収入金額になります(所得税法28条1項、36条1項)。その利益の額は「その資産の利用につき通常支払うべき使用料に相当する額から、本人が実際に支払う額を差し引いた額」です(所得税法施行令84条の2、所得税基本通達36-15(2))。
住宅については、この「通常支払うべき使用料」を市場家賃ではなく固定資産税の課税標準額を基礎とした算式で定めたものが「通常の賃貸料の額」です(所基通36-40、36-41)。国税庁タックスアンサーNo.2600が「賃貸料相当額」と呼ぶものはこれで、通達に「月額をいう」と明記された月額の概念です。
つまり賃貸料相当額は「払わなければならない家賃」というより、「これ以上を受け取っていれば役員に給与課税が生じない基準額」です。これに満たない分は役員への給与として課税され、会社には源泉徴収義務が生じます(所得税法183条1項)。
算式による額は、課税標準額が時価より低いため、一般に市場家賃をかなり下回ります。算式額以上を受け取っていれば、市場家賃より安くても経済的利益はないものとされます。逆に算式額を上回って受け取っても税務上の問題はなく、超過分は会社の収益になるだけです。
法人税法上の役員は、取締役等のほか「使用人以外の者で法人の経営に従事している者」を含みます(法人税法2条15号、法人税法施行令7条1号)。合同会社の業務執行社員は会社の業務を執行する立場であり(会社法590条、591条)、役員に当たると考えられます。業務執行社員でなくても、実際に経営に従事していれば同じです。したがって使用人向けの取扱い(所基通36-45から36-48)ではなく、役員向けの取扱い(所基通36-40から36-44)が適用されます。
会社が役員に対して持つ「使用料債権」と、役員が会社に対して持つ「貸付金債権(会社から見た役員借入金)」は、いずれも金銭債権であり相殺の要件を満たします(民法505条1項)。相殺の効果は弁済と同じで、相殺適状になった時にさかのぼって使用料債権が消滅します(民法506条2項)。したがって会社は使用料を「受け取った」ことになります。
税務上も、源泉徴収における「支払」には現金の交付だけでなく「元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払の債務が消滅する一切の行為」が含まれるとされ(所基通181〜223共-1)、債務の消滅をもって支払と扱う考え方が示されています。これは源泉徴収の規定であり、社宅使用料の「徴収」への当てはめは類推になりますが、通達の「実際に徴収している賃貸料の額」を現金授受に限る文言はなく、相殺で債権が消滅していれば徴収と認められると考えられます。
実務上、同族会社で役員と会社の債権債務を相殺で整理すること(役員報酬からの社宅使用料の天引き、立替経費と未収金の相殺など)は珍しくなく、役員借入金と社宅使用料の相殺もその一類型です。相殺という方法自体を理由に否認された公表裁決・判例は、今回の調査では確認できませんでした。否認事例として紹介されているのは、家賃が無償または著しく低い、契約が役員個人名義、豪華社宅、規程不備といった類型です。
社宅使用契約書(支払方法として「役員借入金との相殺による」旨を明記)、相殺合意書(毎月末に当月分使用料と借入金を対当額で相殺する包括合意)、会社法595条の承認記録または決定書を整えます。役員借入金に返済期限の定めがあるときは、債務者である会社は期限の利益を放棄して相殺できます(民法136条2項)が、役員側から一方的に相殺することはできないため、相殺は会社側から行う(または毎月の合意相殺とする)旨を合意書に書いておきます。
賃貸料相当額は月額の概念で、経済的利益は各月末に生じます。年単位で通算してよいとする通達はありません。期末に年1回まとめて相殺する処理では、各月末の時点で「実際に支払う対価」がなく、各月に経済的利益が生じたと認定されるリスクがあります。包括合意に基づいて毎月末に相殺の仕訳を計上することが、必須に近い運用と考えられます。
毎月末「借方 役員借入金/貸方 受取家賃」。損益計算書に受取家賃が計上され、貸借対照表の役員借入金が同額減ります。未相殺のまま決算を迎えると「未収入金」という資産が立ちます。相殺で減った後の役員借入金の残高を、毎期、役員署名の残高確認書で固めておくと、借入金の実在性と相殺の合意を同時に示す簡便な証拠になります。
相殺する相手がなくなるため、毎月の振込か役員報酬からの天引きに切り替えます。未収のまま放置すると、各月末に賃貸料相当額の経済的利益が生じて給与課税となります。未収家賃を役員貸付金に振り替えると認定利息(令和8年中の貸付けは年1.3%、令和4年から令和7年中は年0.9%。タックスアンサーNo.2606、所基通36-49)の問題が生じ、無利息なら利息相当額も給与になります。臨時・多額の利益供与は賞与と認定されて損金不算入となり(法人税法34条1項)、同族会社の行為計算否認(法人税法132条)のリスクもあります。認定利息は元本に対して計算するもので、未収利息に重ねて利息を付す必要はないと考えられます。
役員借入金を自己資本に準じて見る金融機関では、相殺で減ると純資産相当として見ていた部分が減ります。他方で受取家賃が計上されて損益は改善します。根拠書面があれば説明可能で、悪化は限定的と考えられます。
役員が亡くなった場合、会社への貸付金(役員借入金)は「返済されるべき金額」で評価されます(財産評価基本通達204)。回収不能として元本から除けるのは手形不渡り等の限定的な場合のみで(財基通205)、通常の同族会社では額面評価です。相殺で借入金を減らすことは相続財産を減らす効果があります。一方、会社の純資産が増えるため合同会社の持分(財基通194により取引相場のない株式に準じて評価)の純資産価額は上がる方向ですが、これは現金で家賃を受け取っても同じで、相殺特有の不利益ではありません。死亡時に未払の使用料があれば、役員の債務として債務控除の対象になり(相続税法13条、14条)、会社側では持分評価上の資産に計上されます(財基通185)。
| 観点 | 相殺 | 振込(毎月) |
|---|---|---|
| 証拠性 | 帳簿と合意書のみ。書面整備が必須 | 銀行記録が残り第三者性が高い |
| 資金 | 資金移動なし。返済余力がない会社では現実的 | 役員から会社へ実際に資金が移り、会社の手元資金が増える |
| 事務 | 毎月の振替仕訳が必要だが定型化できる | 会計ソフトの銀行連携で自動仕訳 |
| 税務上の判定 | どちらでも「賃貸料相当額以上を毎月受け取っているか」の判定は同じ | |
固定資産税の課税標準額は、土地・家屋とも原則3年ごとの評価替えで価格が見直されます(国税庁質疑応答事例「社宅に係る通常の賃貸料の額を計算する場合の固定資産税の課税標準額」)。さらに土地は負担調整措置(地方税法附則)により、評価替えの年以外でも課税標準額が毎年動くことがあります。
課税標準額が改訂された場合は「改訂後の課税標準額に係る固定資産税の第1期の納期限の属する月の翌月分から」改訂後の額で計算します(所基通36-42(2))。第1期納期限は自治体により4月末から6月末まで幅があるため、納税通知書で確認します。
「改訂後の課税標準額が20%以内の増減にとどまるときは計算し直さなくてよい」という取扱い(所基通36-46)は、条文上「使用人に対して貸与した住宅等」に限られています。国税庁の質疑応答事例も使用人限定で注記しています。役員社宅は、課税標準額が改訂されるたびに再計算するのが原則です。
相殺でも振込でも、毎年、課税明細書を入手した時点で賃貸料相当額を再計算し、第1期納期限の属する月の翌月分から相殺額・振込額を変えます。相殺の場合は、合意書に「使用料は毎年度の固定資産税課税標準額に基づき改定する」旨を入れておけば作り直しは不要です。振込の場合は、算式額を上回る切りのよい定額を使用料として定めておけば、算式額が多少動いても給与課税は生じず、毎年の確認は「算式額が使用料を超えていないか」だけで済みます。現金の授受だから変動に対応できない、ということはなく、どちらの方式でも年1回の見直しと支払額の改定で対応します。
床面積が132平方メートル以下(木造家屋以外は99平方メートル以下)であれば小規模住宅です(所基通36-41)。「木造家屋以外」とは法定耐用年数が30年を超える住宅用の建物をいい(所基通36-40注2)、鉄筋コンクリート造のマンション(耐用年数47年)は99平方メートル基準です。区分所有建物は共用部分の床面積をあん分して専有部分に加えた面積で判定します(タックスアンサーNo.2600注1、質疑応答事例「役員に貸与したマンションの共用部分の取扱い」)。
借上社宅の場合は、会社が家主に払う賃借料の50%と算式額のいずれか多い額です(所基通36-40本文かっこ書)。自社所有の場合は関係ありません。
床面積が240平方メートルを超える場合は、取得価額、内外装、設備等を総合勘案して「社会通念上一般に貸与されている住宅」かを判定し、該当しなければ算式は使えず、通常の使用料(市場家賃)が賃貸料相当額になります。プール等一般にない設備や役員の嗜好を著しく反映した設備があれば240平方メートル以下でも該当し、逆に240平方メートル超というだけでは該当しません(平成7年4月3日付課法8-1・課所4-4、現在も有効)。
課税標準額が建物全体・敷地全体で決まっている場合は、全体で求めた通常の賃貸料の額を「建物又は土地の状況に応じて合理的にあん分」します(所基通36-42(1))。実務上は床面積比が一般的です。会社所有ビルの最上階のみを貸している場合、建物・敷地とも床面積比等であん分します。
毎年4月から6月頃に届く納税通知書の「課税明細書」の、価格(評価額)ではなく「課税標準額」の欄です。土地は住宅用地の特例と負担調整により課税標準額が評価額と大きく異なります。実務上は課税明細書の課税標準額(住宅用地特例適用後)を用いる扱いが一般的で、税務専門誌(税務通信No.3816、2024年9月)も国税庁取材として特例適用後の額と報じています。手元になければ市町村で公課証明書等を取得します。
建物全体が居住用マンションか、下層が店舗・事務所の併用ビルかで、敷地の課税標準額が大きく変わります。併用住宅は居住部分の割合に応じて住宅用地の特例率が決まります(地方税法349条の3の2、同施行令52条の11の別表)。地上5階以上の耐火建築物では、居住部分が4分の1未満だと特例なし、4分の1以上2分の1未満で0.5、2分の1以上4分の3未満で0.75、4分の3以上で1.0です。最上階のみが住居であれば特例が受けられず、敷地の課税標準額は評価額(負担調整後)のままとなり、算式額は大幅に高くなり得ます。
鉄筋コンクリート造10階建、建物全体の課税標準額3億円、総床面積3,000平方メートル、最上階住戸の専有面積120平方メートル(共用部分あん分後130平方メートル、99平方メートル超で小規模住宅に該当せず)、敷地の課税標準額(住宅用地特例適用後)1億2,000万円。
同等の住戸の市場家賃が月30万円前後であれば、算式額はその半分以下になります。受け取っている額が算式額を上回っているなら税務上の問題はなく、役員の負担を算式額まで下げる余地があります。先に「受取額の根拠(算式か市場家賃か、何年度の課税標準額か、小規模住宅の判定をしたか、あん分方法、住宅用地特例の有無)」を確認することが先決です。
住宅の貸付け(契約で住宅用であることが明らかで貸付期間1か月以上)は非課税です(消費税法6条1項、別表第二13号、タックスアンサーNo.6226)。相殺処理でも相殺前の使用料を非課税売上に計上し、課税売上割合の分母に含めます。国税庁の「消費税申告書の作成に当たっての確認表」にも社宅家賃を非課税売上に計上しているかの確認項目があります。他の階を第三者に賃貸している場合は課税売上割合が動くため、免税・簡易課税・95%ルールのどれに当たるかで影響の有無を確認します。
健康保険・厚生年金では住宅の貸与は厚生労働大臣が定める現物給与の価額で報酬に算入され、本人からの徴収額を差し引いた額が現物給与になります。令和8年10月1日から算定単位が「居住室1畳当たり」から「総面積1平方メートル当たり」に変わり、玄関・台所・トイレ・浴室・廊下のほか営業用部分も含む床面積で計算します(別棟の物置・車庫、共用部分は除く。令和8年厚生労働省告示第94号、日本年金機構「全国現物給与価額一覧表(令和8年4月〜)」)。1平方メートル当たりの月額は東京都1,330円、大阪府820円、福岡県670円です。算式どおりの賃貸料相当額を受け取っていれば通常はこれを上回り、現物給与は生じないことが多いと考えられます。価額の改正は固定的賃金の変動に当たり、随時改定の検討が必要になる場合があります。
専有部分の電気・ガス・水道等を会社が負担すると、毎月負担する住宅の光熱費として給与になります(法基通9-2-11(4))。会社の家具・家電を使わせている場合は、社宅の賃貸料相当額と区分して別途経済的利益を評価します(質疑応答事例「役員に貸与した社宅の家具等の取扱い」)。
賃貸料相当額以上を受け取って(相殺を含む)いれば給与課税はなく源泉徴収も不要です。不足があれば差額を各月の給与として源泉徴収します(所得税法183条1項、所基通36-16(1))。法人税では、不足分の経済的利益は毎月おおむね一定であれば定期同額給与として損金算入できます(法人税法施行令69条1項2号、法基通9-2-11(2)「その額が毎月著しく変動するものを除く」)。期末にまとめて多額の経済的利益が認識される形は損金不算入となるおそれがあります。